刻雲録

言霊の幸う国で、言葉が見せる風景を感じる

グルメ番長

ところで私はグルメである。



根本的に無趣味な私が唯一趣味と言えそうなものは、実のところ「食事」なのかもしれない。

おいしいものを食べることは幸せである。

誰かと食べるのはもっと幸せである。

これまでに甘味番長、おやつ番長と数々の称号を欲しいままにしてきたが、その正体は全てを統括する「グルメ番長」である。


私は今、北海道の北見で悠々自適な暮らしを満喫しているが何を隠そう、ここは食の宝庫である。

しばれる気候を恵みに変えて我が五臓六腑を満たしたもう大地と海よ、そして優れた食材を惜しみなく使いながら破格の値段で懐をくすぐる北の料理人たちよ。


果てしない大空の下で、この世界への感謝を通してあらゆるものの繋がりに興じる今日この頃。






ここで忘れられない味5選を紹介したい。


①愛知県名古屋市『キッチンあさま』

夜は焼肉屋だがランチとしてハンバーグ定食を提供しており、通常サイズ850円、ジャンボサイズが1000円という名古屋で数少ない私のお気に入りであったが、信じがたいことに閉店したようである。

特筆すべきはサイズより味である。

失礼だが、ハンバーグに拘っている店であろうと各店に大した味の差はないが、あさまは不恰好な形ながら絶品であった。

もう食べられないと思うと涙を禁じ得ない。



山形県山形市『しば田』

知られていないと思うが、山形県は麺の国である。

特にラーメンは遠方から来客が絶えないような名店も数多い。

しば田は蕎麦屋だが、お薦めなのが冷やしそばだ。

とりの旨味の引き出し方が最高と言ってよく、冷えた出汁がそれをさらに際立たせる。

ランチは750円くらいで大盛り無料であった。

酷暑との相性抜群のそばだが、どの季節でもうまい。


ちなみに山形のソウルフード、冷しラーメンなるものも存在するが、私の食べた限りでは大したことはなかった。



山梨県富士河口湖町『TABiLiON COFFEE&BOOKS』

この店でオミマイされた感動は今も忘れられない。

クロックムッシュ

これ食べたら誰でもマスオになる。

この日を境にクロックムッシュ狂となりパン屋を漁ってはムッシュと名のつくものを手当たり次第に貪ったが到底敵わない。


ここのニクいところはムッシュだけではなく、ミートパイも一級品なところだ。


唯一の欠点はアクセスが悪いことで、交通の便がよければ山梨に寄る度オミマイされにいったであろう。


通好み、玄人嗜好な書籍の数々も私を飽きさせない要素である。



熊本県菊池市『焼肉水源』

追加料金で焼き肉もできるバイキング形式の水源は、ほぼ阿蘇の外輪山に位置しているためか山菜料理が豊富であり、また阿蘇の新鮮な野菜を腰の曲がったご丁寧なおかあさんが無限のレシピでオミマイしてくれる。

さらに馬肉の味噌煮やしし肉料理とたんぱく源も滞りなく、熊本名物だご汁がおかあさんの優しさを物語る。

店の裏には猪がゲージに入っており、何故なのかは諸兄らの想像に任す。

とにかく品数が多く、味付けが丁寧で、値段は焼き肉をしなければ1000円、全く飽きさせない水源はバイキング界の至宝と呼ぶにふさわしい。


ここはムッシュを食べに行くよりハードルが高い。

菊池市から阿蘇へ向かう山中にあるため、やはり車がないと厳しい。


高齢なおかあさんの体調も気がかりである。

娘さんも手伝っておられるようだったが、今も元気で切り盛りしているだろうか。


熊本に住んでいる頃はこの万年食べ盛り小僧の胃袋をよく満たしてくれた。

人にもよく紹介したし、連れていったりもした。


味も人も思い入れ深いお店である。



沖縄県伊江島『???』

店名を忘れ、見た目も忘れ、だが味だけは覚えている。

まさにこの稿の主旨に則った味の記憶。


沖縄の「かき氷」は本州のそれとは全く違っていた。

うろ覚えで申し訳ないのだが、小豆が乗っかっていたがよくある抹茶かき氷のような感じでもなく、練乳とも違う何かがかけられており、近頃の派手なかき氷を先駆けていたような具合か。

よくよく思えば台湾にも近いので何か共通のかき氷文化があるのかもしれない。

そういえば店でなく屋台だった気もする。


とにかく初めてかき氷を「ガッツリ」食べた夏の記憶が今も鮮明に残っている。




以上、厳選するのに苦労したが雑誌企画のようなことを自分でやってみるのは案外面白いものである。

写真があればより雑誌らしくもなっただろうが、未だ一人外食中に写真を撮るのは気が引けてしまうし、もっとも早く飯にありつきたい一心で写真どころではないのも事実である。



今回変わり種を投じてみたのは毎度堅苦しい稿ばかりではつまらないかと思い、あえて似合わぬことをしてみた。

合わないことをするのもいいものだ。


それにしても冒頭で北海道の食を誉めておきながらひとつも入っていないのは、後から気づいたことではあるがこれもご愛嬌というものである。


また折に触れて○○5選をやってみたい。