刻雲録

言霊の幸う国で、言葉が見せる風景を感じる

月下美人

海のような命の深淵に

置き捨てられた永遠を

一筋の光が照らし出す

月は今宵も寂夜を抉る

愛しい君の幻影が

月の下に輪郭を晒す

取り戻せぬ時の代わりに

在りし日々が静寂(しじま)にさざめく

悔いも嘆きも月の下に

こぼれ落ちては夢の跡

微かな逢瀬の残り香を

ひしと抱いた月下美人

道を失くした花の行方を

明日も照らしてくれるのか

流れるがままの旅先で

ふと開きませ月下美人

あの夏の日は二度と来ない

愛し君よ月下美人